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梅雨明け宣言されてからの7月は連日の猛暑だったのに、ここ数日は雷雨で荒れまくっている関東の天気。特に5日は記録的な豪雨で、ニュースによると「午後1時10分ごろには、川崎市多摩区の1万3800回線で電話が通じなくなり、約3時間半後に復旧した。落雷が原因とみられる」だって。
しか〜し、そんな暑さとうっとうしさを吹き飛ばす熱演がミューザ川崎シンフォニーホールで連日行なわれています。
この真夏の祭典『フェスタサマーミューザKAWASAKI2008』(7月19日〜8月9日)は、ぼくが『好田タクトの曲目解説・ここが聴きどころ!』という形でパンフレットの曲目解説を担当している縁もあって、仕事で行けない日以外の演奏会は聴きに行くようにしています。
その鑑賞レポートを、印象が新鮮なうちに書いておこうと思います。
会場展示室には、今回のポスターも担当されたきたむらさとしさんの『動物たちの謝肉祭』『おんちのイゴール』の原画約50点も展示されています。
■ 7/25(金)
新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:クリスティアン・アルミンク
ソプラノ:市原 愛
○ モーツァルト: 「どうしてあなたを忘れられましょう…恐れないで愛しい人よ」K.505
○ モーツァルト: 歌劇「イドメネオ」K.366より「親しい孤独よ…暖かいそよ風よ」
○ ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」
アルミンクと新日本フィルが出会って10年、音楽監督になってもう5年。37歳のアルミンクはかっこもよく音楽作りも誠実なので、ますます人気上昇中。ぼくは一年前までトリフォニー会員だったので、けっこうな数の新日本フィルの演奏と公開リハーサルを聴いてきたけど、こうしてホールが違うとやっぱり違った響きに聴こえる。前にもまして透明度が増したような感じ。爽やかアルミンクが振る「運命」は、すっきりくっきり、あっさり味の「旨い(うんめい)ラーメン」のようだった。
市原愛さんも好演。
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■ 7/29(火)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮:矢崎彦太郎
朗読:中井美穂
○ プーランク:音楽物語「ぞうのババール」
○ プーランク:演奏会用組曲「模範的な動物たち」
かなりおもしろく聴けた演奏会。
プーランクはフランス6人組のひとり。
中井美穂さんのナレーションは感情をそれほど出すことなく丁寧だったけど、「子象」が「小僧」に、「ババール」が「ばばあ」に聞こえて、それでストーリーを想像していたら心の中で一人吹き出してしまった。
最後の音と同時に朗読部分が「Fine」となっているのだろう、中井さんが「おしまい」と言ったところで、初めてほのぼのとした笑いが起きた。
いつもながら感心したのは東京シティ・フィルの細やかな演奏。ほんと、うまいって思った。 この楽団は飯守泰次郎さんと矢崎彦太郎さんが両輪で蜜月関係を築き上げてきて、飯守さんはドイツもの、数々のワーグナーの名演をこの楽団で連発して、矢崎さんはフランスもので定評がある。楽団もおのずとドイツものとフランスものの弾き分けをしている。
こんな野心的な企画プログラム、それに応える上質の演奏。正直、もっと多くのお客さんに聴いてもらいたいと思った。確かに今の日本では、この曲はお客を呼ぶのに難しさがあるのかも。音楽は大人のクラシック音楽好きの嗜好に合うかもしれない。「ピーターと狼」ぐらいの通俗曲でないと夏休みの親子を会場にまで足を運ばせられないのかな。
会場には飯守泰次郎さんも来られてました。ぼくは今回は挨拶できなかったけど。(ぼくは前にマエストロとお会いする機会に恵まれ、自著を渡したことがある。もう読んでくれたかしら…)
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■ 7/30(水)
読売日本交響楽団
指揮:下野竜也
○ フンパーディンク: 「ヘンゼルとグレーテル」より“夕べの祈り”“夢のパントマイム”
○ ワーグナー: 楽劇「神々の黄昏」より“夜明け”“ジークフリートのラインの旅”
○ シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 作品97「ライン」
最近とみに人気と評価があがっている下野竜也さん。熱狂的なファンもいて、下手な批評でもしようものなら書き込みが炎上しかねない。でもその人気ぶりは、今回の演奏を聴けば納得できる。
読響という日本屈指の歴史と機能を持ったオーケストラが、いかにこのマエストロを敬愛し、一緒にいい音楽を作ろうとしているのかが顕著に見えた演奏会。けっして演奏するのには易しくないこのプログラムを、難なく構築させ、私達に見事にドイツのイメージを彷彿させ酔わせてくれた、真昼の贅沢なひとときだった。
そしてこの日の演奏会は、ぼくにはもうひとつ意味があった。
前日に世界的指揮者、ホルスト・シュタイン氏の訃報(亡くなったのは27日)を知った。自分の心の中では、ドイツの歌劇場の叩き上げ職人(カペルマイスター)の称号にふさわしいシュタインさんの追悼コンサートのつもりで聴いた。
アンコールの曲、弦楽合奏に編曲されたシューマンの『トロイメライ(夢)』が流れた時、ぼくは目をつぶりながらシュタインさんを思い出していた。
目頭が熱くなり、涙が溢れそうになった。
フライング拍手が出たのには残念だったけど。
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■ 8/4(月)
NHK交響楽団
指揮:梅田俊明
司会:高橋美鈴(NHKアナウンサー)
○ ブリテン:「マチネミュージカル」よりマーチ
○ ボロディン:だったん人の踊り(オーケストラ)
○ ビリック:ブロックM
○ ヴォーン・ウイリアムス:イギリス民謡組曲
○ ラヴェル:ボレロ
この日、つくづく感じたことは「ミューザ川崎シンフォニーホールってほんと、よく響くホールだな」。
本公演の前にプレ・コンサートがあった。ブラームス弦楽五重奏第2番ヘ長調作品111から第1楽章と、マリンバ・ハープ・チェロの三重奏で、グラズノフ「スペイン・セレナーデ」、カザルス「鳥の歌」、ファリャ「《恋は魔術師 El amor brujo》より〈火祭りの踊り〉」。
一本のチェロのピアニッシモの音だけでも、会場の隅々にまで繊細に聞こえる。ちょっと聞こえ過ぎ、響き過ぎにも思える。メロディーラインのきれいな曲や歌曲、小編成なんかには他のホールを圧倒する残響音でここちよい響きなのだろうけど、ショスタコーヴィチのような魂の叫び、乾いたデッドな音が逆に望まれる音楽にはなんかこのよ過ぎる響きが命取りにならないかな。そう言えば、昨年のこの音楽祭のオープニングで聴いた東響のプロコフィエフ交響曲第5番が、なんか機械音で荒々しくあってほしいのに、武骨さが陰を潜めまとまりのいい音楽になって違和感を感じたのを思い出した。もちろん今回のプレ・コンサートはそれだけでもじゅうぶん感動的で聴いた人も満足したことだろう。
さてN響の本番。やっぱりN響は横綱かもしれない。
演奏も機能性を問われるボレロもすばらしく仕上がり、ほんと安心して聴けた。前までのN響だったら、ボレロは金管のソロなんかこっちも手に汗握ったのに、なんかほんと、大人の演奏だった。パワーも桁が違う。「だったん人の踊り」も余裕で客を魅了していた。
またもうひとつの意味で、全体の進行がすばらしい。
オケ→吹奏楽→大編成オケ。どうするんだろうと思っていたら、NHKのアナウンサー高橋美鈴さんが出てきた。ぼくは3月にNHK−BSの「ベルリン・フィルのすべて」で共演させていただいたので、なんかうれしい。さすが仕切りの上手な高橋さん。手馴れた感じで転換をわかりやすく説明し、演奏者にインタビューし、笑いも興味も誘う。この構成はもう、NHKの経験からくる横綱コンサートだ。
高橋美鈴さんはさすがに花形人気アナウンサーで、会場から万雷の拍手をもらっていた。
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■ 8/5(火)
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:尾高忠明
ピアノ:小山実稚恵
○ ラフマニノフ:ヴォカリーズ<オーケストラ版>
○ ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
○ ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27
この日の都内は朝から記録的な大雨で、さすがにJRも遅延運行だ。ところが川崎に着いたら、地面も濡れておらず昼間の落雷での電話不回線が信じられない明るさ。そしてその熱気がそのままホールに乗り移った感じだ。ぎっしり最上階まで超満員にびっくり。確かに、早々とチケットが売り切れたコンサートだったとは聞いていたが。
「すごい人気だ。客はこの日のコンサートを、そうとう期待している」
そしてその期待は熱狂へ見事に昇華した。
いや〜、びっくりするぐらいいいコンサートだった。
関係者に「忠さん」と親しまれ尊敬されている本日のマエストロ尾高忠明さん。ちょうどNHKでは尾高さんがウィーン時代を振り返る旅番組も何回か再放送されている。札幌交響楽団を刷新された事務局とともに見事に立て直し(それはニュースにもなった)、エリシュカという天才指揮者をも掘り起こし招聘し、その手腕が買われて報道が先行する形で2010年9月から新国立劇場オペラ部門の芸術監督に就任する模様。
尾高さんは今、日本の指揮者では一番最盛期のひとりかもしれない。
感情を前面に出し、音楽にもかなり色づけをする指揮者が持てはやされる昨今の日本の音楽界にあって、感情を前には出さず、誠実な音楽作り。一見すごく地味に思われるが、本当の熱さがここにはある。それがすごく感じる。そういう指揮者では秋山和慶さんと双璧だろう。
そしてこの2人はぼくにはすごく、テンポ感が合う。
秋山師匠(ぼくは私淑)が大阪で新日本フィルで振った「幻想交響曲」と、尾高さんがN響で振ったマーラーの2番「復活」。出会った演奏が自分にピッタリきたら、もうその指揮者への信頼は揺るぎない。ぼくは断然この2人が日本の指揮者ではピッタンコなのだ。
そして今回の演奏。オール・ラフマニノフという必ずしも定番ではないはずなのにこの期待。
冒頭の「ヴォカリーズ」からして会場の空気がいつもと違う。ピアノの小山実稚恵さんが白いワンピース(ぼくは男なのでよく服はわからない、だぶんワンピースだと思う)で登場し、超技巧のはずなのに安定感のある演奏は、「パガニーニの主題による狂詩曲」という音のふりかけが、ホールを宇宙にいるようなロマンチシズムに変える。演奏後の拍手が鳴り止まず、5回も小山さんはカーテンコールされ、場内が明るくなってはじめて休憩に入れた。
後半の交響曲第2番。ぼくは曲目解説で「第3楽章は音楽史上最高の美しさと惚れこむ人続出だ」なんて書いたから、みんなの反応が気になったが、最後の最弱音が聴こえなくなるまで2千人の会場が息をつめ一体となった感じは、あながちオーバートークではないかもと安堵した。そして終楽章のたたみかけ。
演奏が終わった瞬間、怒涛のような「ブラボー!」の嵐。
いやあ、尾高さんと東フィル、ラフマニノフの底力を見た。
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■ 8/6(水)
日本フィルハーモニー交響楽団
指揮とお話:沼尻竜典
ピアノ:若林 顕
○ ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 作品30
○ ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」(1911年版)
きょうは暑かったので、洗濯をしてから出かけようとしたら、全自動のふたを閉め忘れ思わぬ時間をくい、開演3時ぎりぎりの入りになった。いよいよあと2公演でこのフェスタも終りだと思ったら、ちょっと寂しくなった。
最初に沼尻さんが一人出てきてお話をされた。指揮にピアノ、しゃべくりもする沼尻さんは、日本のレナード・バーンスタインみたい。トークの後に楽団員、若林さん沼尻さんが登場していよいよ演奏。最も難曲だと言われるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を自在に演奏する若林さんを見て、前日の小山さん、最終日の小川さんも含め日本ってクラシック音楽ではもう世界から巨匠を呼ばなくても、じゅうぶんやっていける人材の宝庫なんだなと心底思った。スケールの大きな演奏に加え、指揮者と演奏者の信頼関係もすごく感じられて、40分間があっという間に走り去った感じだった。ずっと叩きまくったピアノの楽譜って、いったいどれだけの音符が書き込まれているのだろう。
20分の休憩を挟んで後半。演奏を始める前に沼尻さんが曲の解説をしてくれる。これは実にわかりやすかった。「ペトルーシュカ」の登場人物のテーマや、場面の描写などを実演をして説明してくれるのだ。例えばオーケストレーションと頻繁なリズムの変更は、祭日の喧騒とざわめき、ドラムは老魔術師のお出まし、ムーア人がペトルーシュカに追いついて斬殺するところはタンバリンを床に落とす、各場面の転換ははけたたましい太鼓連打など。逆にこの説明がなければ、初めて聴く人はおもしろみがわからないかもしれない。元々はバレエ音楽なのだから。演奏は1911年版だったので4管編成と大きい編成で、さすがに豪勢。演奏は大変だっただろうけど。
『のだめカンタービレ』でのだめがコンクールで弾いたため、楽譜を取り扱う店舗ではこの曲のピアノ版『ペトルーシュカからの3楽章』の楽譜が、売り切れる店が続出した。とこんなことをパンフレットの曲目解説に書いていたのはぼく。
気になったのは、曲の後半辺りから席を立って急いで出て行くお客さんがけっこう見受けられた。そしてぼくの横の親子4人連れも関西弁でなにかしゃべっている。曲が終わると同時に「新幹線が間にあわへん!」と大急ぎで出て行った。パンフレットを見ると終演予定が16:40となっている。しかし「ペトルーシュカ」の演奏がじっさいに終わったのは17:10ぐらい。アンコールのヴォカリーズ<オーケストラ版>を含めると17:25ぐらいになっている。これは次の予定を入れているお客さんにとってはちょっと気の毒。沼尻さんと日本フィルの試み「ペトルーシュカ」の実演解説がよかっただけに、それも含めた終演時間をもう少し正確に記載してほしかった。若林さんは後半もピアノ部分を引き受け、アンコールのヴォカリーズも昨日の東フィルとは違ってピアノが存分に入って、出ずっぱりの大忙しだった。
さあ、演奏会も残すところあとひとつ。そしてきょうから北京オリンピック。ぼくの単独ライブも鎌倉である。洗濯ものはすぐ乾く。みーこは夏ばてのわりには、よく食べる。こよみではきょうは「立秋」だが、熱い夏はまだまだ続く。
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■ 8/9(土)
東京交響楽団 フィナーレコンサート
指揮:ユベール・スダーン
ピアノ:小川典子
○ グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲
○ ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
○ ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 作品88
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